避難器具|種類や設置基準・点検・更新・費用相場について徹底解説
ビルやマンションなどの大きな建物では、火災や地震などが発生した際に避難経路が塞がれて逃げ遅れるリスクが高くなるため、「避難器具」の設置が義務付けられています。今回の記事では、避難器具の設置が必要な建物の詳細、避難器具の具体的な種類や設置基準、点検などについても詳しく解説していきます。
避難器具って何?
避難器具とは、火災や地震などが発生したとき、廊下や階段といった避難経路が利用できなくなった場合に避難するための器具です。
大きな建物や不特定多数の人々が集まる建物など、有事に逃げ遅れるリスクが高い「防火対象物」に設置義務があり、多くはベランダや屋上などに設置されています。
避難器具の設置義務がある「防火対象物」とは?
消防法第2条第2項において、防火対象物は以下のように定義されています。
「防火対象物とは、山林又は舟車、船きょ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物をいう。」
引用元:消防法第2条第2項|e-GOV
さらに、消防法第17条第1項において、避難器具を含む消防用設備の設置義務の対象となる建物を下記のように明示しています。
「学校、病院、工場、事業場、興行場、百貨店、旅館、飲食店、地下街、複合用途防火対象物その他の防火対象物で政令で定めるものの関係者は、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設(以下「消防用設備等」という。)について消火、避難その他の消防の活動のために必要とされる性能を有するように、政令で定める技術上の基準に従つて、設置し、及び維持しなければならない。」
引用元:消防法第17条第1項|e-GOV
該当する建物の詳細は消防法施行令別表第1で確認することができます。
避難器具の種類と設置基準
設置するべき避難器具の種類や個数は、建物の規模・用途・収容人数などの条件によって変わってくるため、建物ごとに個別の確認が必要になります。
消防法施行令第25条に詳細が記載されていますが、内容はかなり複雑です。
所有・管理する建物に関する避難器具の設置基準を正確に知りたい場合は、専門家または最寄りの自治体や消防署に確認すると良いでしょう。
なお、避難器具の構造・材質・強度などの基準については、下記の参考サイトで確認が可能です。
ここからは、避難器具の種類と設置基準を簡略に紹介していきます。
避難はしご
固定式・立てかけ式・吊り下げ式・ハッチ格納式など、さまざまな種類の避難はしごがあります。また、材質は金属製または樹脂製のものが一般的です。
地下階と2階以上に設置することができ、地上階(1階)と11階以上には設置不要となっています。
ただし、消防法施行令別表第1の(六)項に記載されている病院や老人ホームなどの防火対象物においては、3階以上に設置することはできません。
緩降機
ロープで降下避難するための器具です。ロープの先端にある着用具を体に装着し、自重で降りていきます。
調速器で降下速度を調節できるので、ゆっくりと安全に降下することが可能です。強度などについても法令で一定の基準が設けられています。
ひとり用と複数人用がありますが、現在はほとんどの建物でひとり用が採用されているようです。
法令上、地上階(1階)と11階以上には設置「不要」となっていますが、11階以上にも設置することは可能です。
消防法施行令別表第1の(六)項に記載されている防火対象物においては、6階以上に設置することはできません。
救助袋
布製の袋の中を滑り降りて地上に避難する器具です。バルコニーの柵や窓などに枠を固定して使います。
広げるときに一定のスペースが必要になるため、敷地面積の広い学校などに設置されていることが多いようです。
救助袋には、真っ直ぐに降りた袋の中を螺旋状に滑る「垂直式」と、斜めに降ろされた滑降面の上を滑り台のように滑る「斜降式」があります。
地上階(1階)と11階以上に設置義務はありませんが、すべての防火対象物の2階以上に設置することが可能です。
滑り台
鋼板製などの台の上を滑って避難する器具で、直線状または螺旋状のものがあります。
病院や老人ホーム、幼稚園などの施設にもよく設置されているので、実際に見たことがある方も少なくないでしょう。
救助袋と同じように滑り降りるタイプの避難器具ですが、常設なので設置する手間がなく、迅速かつ安全に大人数が避難できるところもメリットです。
地上階(1階)と11階以上には設置義務はありませんが、すべての防火対象物の2階以上に設置することが可能です。
滑り棒
垂直に固定した棒を滑り降りる避難器具です。消防署などに訓練用・召集時の移動用として設置されていることが多いので、見かけたことがある方も少なくないでしょう。
滑り降りるときにスピードが出るため危険が伴います。子どもや高齢者には使いづらく、健康な大人でも一定の腕力が必要となるでしょう。
そのため、滑り棒が設置できるのは2階のみで、消防法施行令別表第1の(六)項に記載されている防火対象物には設置できません。
避難ロープ
上端部を固定して吊り下げたロープを伝って降下する避難器具です。
急降下を防ぐために滑り止めの結び目がついていますが、滑り棒と同様に危険が伴うほか、子どもや高齢者には使いづらく、健康な大人でも一定の腕力が必要になります。
そのため、避難ロープの設置条件は滑り棒と同じです。避難ロープが設置できるのは2階のみで、消防法施行令別表第1の(六)項に記載されている防火対象物には設置できません。
避難橋
隣接する建物に避難する際に使う橋状の避難器具で、屋上などに設置されます。
ただし、所有者同士の許可や、高さが同一でなければ設置が難しいなどの条件もあるため、実際に避難橋を導入している建物は少ないようです。
法令上はすべての防火対象物の2階以上に設置することができますが、地上階(1階)と11階以上に設置義務はありません。
避難用タラップ
階段状のタラップを普段は格納しておき、有事の際に展開して避難します。避難用のタラップを見かけることはあまりありませんが、飛行機のタラップを想像していただくと良いでしょう。
法令には「階段状のもので、使用の際、手すりを用いるものをいう」と記載されています。手すりがあるので、安全かつ恐怖の少ない避難が可能です。
ただし、設置できるのは地下階・2階・3階に限られ、消防法施行令別表第1の(六)項に記載されている防火対象物では、3階への設置は認められていません。
11階以上は避難器具の設置義務がない?
各避難器具の設置基準を見ると、「11階以上には設置不要」とされているものが多く、「11階以上のフロアで避難が遅れた場合はどうなるの?」と疑問に感じることでしょう。
11階以上(高さ31m以上)においては、スプリンクラーなどの消火設備の設置を義務付ける、避難誘導のための放送設備を充実させるなど、避難器具とは別の防火対策がとられているのです。
ハシゴ車が届く高さとの兼ね合いや、あまりに高い所からの避難器具の使用には危険が伴うことも理由のひとつと考えられます。
避難器具の標識
有事の際に容易に発見できるようにするため、避難器具には標識の設置が義務付けられており、標識の大きさやデザイン、設置の仕方にも基準があります。
標識には「避難器具」「避難」「救助」などの文字を表示し、大きさは縦12cm以上・横36cm以上で、地色と文字の色は相互対比色にします。
標識は、避難器具の直近の見やすい場所と、避難器具がある場所につながる廊下や通路にも設置します。
さらに、使用方法が難しい避難器具については、使用方法についての標識も設置しなければなりません。
参考:避難器具の設置及び維持に関する技術上の基準の細目|平成8年消防庁告示2
避難器具の点検
人命を守る消防設備には、いざというときに「故障や劣化で使えない」ということがあってはなりません。
そのため、定期的な点検と報告が法律で義務付けられています。避難器具もまた、消防法17条3の3が規定する法定点検である「消防用設備等の点検(以下、消防設備点検)」の対象です。
点検義務を怠ったり虚偽の報告をしたりすると、消防法第44条にもとづいて罰則が課せられる場合もあるので、必ず規定の時期に正しく実施するようにしましょう。
点検の頻度
消防用設備点検には「機器点検」と「総合点検」の2種類があります。
機器点検は6ヶ月に1回の頻度で、外観からの点検と簡易な操作による点検を行います。損傷の確認に加え、適切に配置されているかどうかなどもチェックされます。
総合点検は、消防用設備の全てまたは一部の動作テストを行って、正常に機能するかどうかを判断する点検で、1年に1回の頻度で行われます。
点検の内容と点検者の条件
防火対象物の消防用設備点検は、有資格者(消防設備士免状の交付を受けている者または総務省令が定める消防設備点検資格を有する者)によって実施するように義務付けられています。
避難器具の点検には、消防設備士の第5類または第6類、消防設備点検資格者なら第2種の資格が必要です。
参考:消防設備士免状の交付を受けている者又は総務大臣が認める資格を有する者が点検を行うことができる消防用設備等又は特殊消防用設備等の種類を定める件|平成16年消防庁告示10
点検の要領や点検票は下記ページからダウンロードできます。
なお、防火対象物に該当しない建物については有資格者以外による点検も認められていますが、有資格者の点検を推奨している自治体も少なくありません。
このように、消防設備点検は有資格者による実施が基本なので、業者に依頼して実施するのが一般的です。
点検コストと業者選びのコツ
避難器具は有事の際に人命を救うための設備であり、正しい方法で点検を実施して万全のコンディションを保つことが必須です。そのため、業者選びはとても大切になってきます。
ここからは、避難器具の点検にかかる費用や点検業者を選ぶときのポイントについて解説していきます。
点検費用の相場は?
消防設備点検の対象は避難器具だけではありません。屋内消火栓やスプリンクラー、連結送水管などの設備も点検対象なので、まとめて点検を行うケースのほうが多いようです。
消防設備点検の費用は、「人数×時間+経費」で算出している業者と、建物の広さ・種類、消防設備の数や種別によって算出している業者があります。
目安としては、オフィスビルや雑居ビルでは~1,000㎡あたり30,000円程度、マンションやアパートで消火器具・避難器具・火災報知機といった設備のみの点検であれば35,000円程度、連結送水管などの点検も行う場合は55,000円程度です。
ただし上記はあくまで一例であり、業者ごと設定や算出方法によって異なってきますので、正確な点検費用を知りたい場合は、実際に見積もりを取ってみることをおすすめします。
弊社でも、避難器具を含む各種消防設備の点検を行っています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
点検業者はどう選ぶ?
避難器具の点検業者を選ぶときのポイントは、以下3点です。
- 実績の豊富さ
- 改修・更新まで依頼できるかどうか
- 他の消防設備と同時に点検が可能かどうか
人命にかかわる重要な設備なので、まずは実績が豊富で品質・効率の良い点検を行ってくれる業者を選ぶようにしましょう。
異常が見つかったときにすぐに対処できるよう、改修・更新工事まで請け負ってくれる業者だと、さらに安心です。
避難器具以外の消防設備の点検も同時に行いたい場合は、対応の可否を事前に確認してください。
避難器具の点検・改修・更新はトネクションまで!
廊下や階段などの避難経路が塞がれてしまったとき、避難器具は第2・第3の避難経路となって人命を守ってくれます。
いざというときにその本領が発揮できるように、定期的な点検を実施し、必要があればすぐに改修工事や更新を行いましょう。
弊社は各種建物や消防設備の点検実績が豊富で、避難器具の点検はもちろん、改修・更新工事もワンストップで提供できます。
興味のある方は、お気軽に下記の見積もりフォームからお問い合わせください。
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